高橋慎一がはじめてこの家の前に立ったのは、2月の終わり、まだ風が冷たい午後のことだった。
不動産会社から渡された区画図を見ながら、敷地の端から端まで歩いてみた。30秒かかった。230平米というのは、数字で見るのと体で感じるのとでは全然違う。「これ、本当にうちの土地になるの?」と隣で妻の麻衣子がつぶやいた。
めじろ台という選択
慎一は都内の建設会社で部長職についている。45歳。子どもは中1の息子と小3の娘。今の賃貸マンションは国分寺、3LDKで月14万円。もう7年住んでいる。
転機になったのは、息子の颯斗が野球を始めたことだった。日曜の朝、近所の公園でキャッチボールをしようとしたら、「ここではボールを使わないでください」という立て看板があった。慎一は無言でボールをしまった。
「どこか広い場所に引っ越したい」という気持ちが、その日から本格的になった。
めじろ台を選んだのは、高尾山まで車で10分ということが大きかった。慎一は月に一度は山に入りたいタイプで、妻はキャンプが好きだ。駐車場が3台というのも、アウトドア道具を積んだSUVと、いつか娘が運転するようになった時のことを考えると「多いくらいで丁度良い」と思った。
6,490万円をどう考えるか
正直、最初は高いと思った。7年前に国分寺で同じ値段のマンションを検討していたことがある。でもあの時と今では条件が違う。あの時は70平米。今は土地230平米、建物105平米、庭つきの新築戸建てだ。
慎一は試算をした。頭金1,500万円を入れて残りを35年ローンにすると、月々の返済が約16万円になる。今の家賃より2万円高い。でも駐車場代(月2万5,000円)がなくなる。つまりトータルの住居費は「ほぼ今と変わらない」という計算になった。
「数字を出したら、麻衣子が『じゃあ買おうか』って即答したんですよ」と慎一は笑う。

リビングと、庭の話
竣工したばかりの室内を内見した日、慎一が一番長く立っていたのはキッチンの前だった。窓の向こうに庭が見える。庭で遊ぶ子どもたちを眺めながら料理ができるというのは、マンション生活では絶対にできないことだ。
リビングイン階段も気に入った。子どもが帰宅したら必ずリビングを通る構造は、中学生の息子と顔を合わせる機会を自然に作ってくれる気がした。
週末のめじろ台
南向きバルコニーからは前面に高い建物がなく、空が広い。めじろ台4丁目というのはそういう場所だ。
入居後のことを慎一はよく想像する。土曜の朝、颯斗は庭でネットを張って素振りをする。娘の莉子は何かを育てたいと言っている。家庭菜園か、花か。麻衣子はBBQコンロの置き場所を真剣に考えている。慎一は日曜に高尾山へ行く。帰り道、スーパーで食材を買って帰る。そういう週末が、この家では普通になる。
6,490万円は、その普通を買うための値段だと思っている。
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