築60年は、個性だと思っている ── 杉並区和田の中古マンション5,480万円と、二人の選択

東京

築60年という数字を聞いて、渡辺奈緒は引いた。でも内見した瞬間、考えが変わった。

「なんか、好きな映画みたいな部屋だな、と思って」

杉並区和田1丁目。新中野駅から歩いて7分。鉄筋コンクリート7階建ての4階。南向きの窓から午後の光が入ってくる。1967年に建てられたマンションは、廊下の手すりの形も、玄関ドアの質感も、今のマンションとは何かが根本的に違う。「新しくないこと」が、この物件の一番の特徴だった。

杉並という選択

奈緒は34歳、医療系の翻訳者としてフリーランスで働いている。パートナーの健司は37歳、中野のデザイン事務所に勤めている。二人は今、三鷹の賃貸マンションに住んでいて、月々の家賃は合わせて17万円だ。

「いつかは買おうと思っていたけど、新築マンションのモデルルームに行くたびになんか違うな、って感じてて」と奈緒は言う。どこも同じ白い壁、同じ素材のフローリング。機能的だけど、自分たちの「居場所」になる気がしなかった。

転機になったのは、健司が仕事で杉並区を歩き回るようになったことだ。新中野から中野富士見町にかけての住宅街。商店街の小さな古本屋、路地裏のコーヒー豆専門店、週末に地元の人で賑わう公園。「ここで暮らしたい」という気持ちが先にあって、物件探しが後から始まった。

5,480万円と築60年の現実

価格を見た時、健司は「立地の値段だ」と思った。同じ広さの新築マンションをこのエリアで探せば、7,000万円は超える。5,480万円という数字は、建物の古さへの対価ではなく、杉並区和田という場所への対価だ。

ローンの試算をすると、頭金1,000万円を入れて35年返済で月々約18万円。管理費と修繕積立金を合わせると月々約13,000円の追加になる。二人の今の家賃より高い。でも奈緒は「家賃を払い続けるより、何かが手元に残る方がいい」と決断した。

築60年という点については、管理組合がしっかり機能しており、中庭が丁寧に手入れされているという口コミも確認した。鉄筋コンクリートの建物は適切に管理されれば100年以上持つとも言われる。心配より好奇心が勝った、というのが正直なところだ。

2LDK+Sの使い方

69㎡の2LDK+Sは、二人には少し広い。でもサービスルームに奈緒の仕事部屋を作る計画がある。翻訳の仕事はどこでもできるが、「仕事とそれ以外の空間を分けたい」というのは、フリーランスになってからずっと思っていたことだった。

対面キッチンで、パントリーとシューズインクローゼットがある。収納にこだわりのある健司にとって、これは決め手の一つだった。南向きのLDKは日中ずっと明るく、午後3時になっても自然光だけで仕事ができる。

ペット飼育可というのも見逃せなかった。二人はいつか猫を飼いたいと思っている。今の賃貸マンションはペット不可で、それが心のどこかにずっと引っかかっていた。

新中野の朝

引越し後の朝を、奈緒はすでに想像している。健司が丸ノ内線で中野坂上まで出て事務所へ向かう。奈緒はコーヒーを淹れて、南向きの窓際で仕事を始める。昼過ぎに一度外に出て、徒歩400mのオオゼキで食材を買う。夕方、路地裏の小さな店でワインを一本選ぶ。

杉並区の住宅街というのは、そういう「小さな日常」が豊かな場所だ。それを知っているから、二人はここに住むことを選んだ。

築60年は、欠点ではなく個性だと思っている。

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