「ローンを組む年齢じゃないと思っていた」と、田中義雄は言った。
65歳。定年から3年が経つ。妻の和子は62歳で、二人の子どもはどちらも独立して家を出た。今は上尾市内の賃貸マンションで暮らしている。月々の家賃は9万円。年金と退職金の運用収益で生活は成り立っているが、「払い続けて何も残らない」という感覚が、年を重ねるごとに重くなっていた。
リバース60という仕組みを知った日
知ったのは、ファイナンシャルプランナーとの面談の場だった。リバース60とは、60歳以上を対象にした住宅ローンで、毎月の返済は利息のみでいい。元本は、本人が亡くなった後に物件を売却することで清算される仕組みだ。
「元本を返さなくていいんですか」と義雄は聞いた。「はい、毎月の支払いは利息だけです」という答えが返ってきた。
4,820万円の物件を、金利1.5%でリバース60を組んだとすると、月々の支払いは約6万円になる。今の家賃9万円より安い。しかも家賃と違い、住み続ける限り自分たちのものだ。義雄はその数字を、しばらく眺めた。
上尾駅前という選択
物件はシティタワー上尾駅前の7階。上尾駅から徒歩2分、地上28階建ての大成建設施工タワーマンションだ。2LDK・57㎡で、二人で暮らすにはちょうどいい広さがある。
上尾を選んだのは、長男家族がさいたま市内に住んでいるからだ。高崎線で一駅、電車で10分かからない。孫が生まれたばかりで、「近くにいたい」という和子の希望があった。東京に出るにも湘南新宿ラインで直通で行ける。悪くない立地だと義雄は思った。
駅から2分という距離は、年齢を重ねた時のことを考えると心強い。車がなくても生活できる。スーパーが目の前にある。病院も徒歩圏内にある。「老後の立地条件として、これ以上のものはないかもしれない」と和子は言った。
元本を残すことへの考え方
子どもたちには話した。リバース60で買うつもりだ、死後に物件を売却して元本を清算する仕組みだ、と。
長男は「相続のことは気にしなくていい」と言った。次男も同じだった。「二人とも、自分たちで生きていける。親の財産をあてにしているわけじゃない」と義雄は言う。それが確認できたことで、踏み切れた。
「老後の住まいに2,000万円のキャッシュを使うより、その資金は手元に残しておく方がいい」という判断もあった。リバース60ならキャッシュを温存しながら、自分たちの家を持てる。
28階から見える景色
7階からは、上尾の街が見渡せる。高層階ではないが、周辺に高い建物がないため視界が開けている。和子は「思っていたより空が広い」と言った。
引越し後は、長男家族と月に数回会う予定だ。孫を連れてきてもらう時のために、もう一部屋を客間にするつもりでいる。
65歳で初めて「自分たちの家」を持った。月々の支払いは今の家賃より安い。手元の資金はそのまま残る。
リバース60は、老後の選択肢を増やしてくれる仕組みだと、義雄は思っている。
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