マンションから戸建てへ。子どもの「庭でBBQしたい」で始まった藤が丘の家探し

神奈川

「庭でBBQができる家に住みたい。」

息子がそう言ったのは、ゴールデンウィークのことだった。

その日は、家族で友人宅へ遊びに行っていた。

友人の家は、横浜の郊外にある一戸建て。

大きな庭があるわけではない。

それでも、リビングの窓を開けると小さなテラスがあって、その先に少しだけ土の部分がある。

そこに折りたたみのテーブルを出して、

肉を焼いて、

子どもたちはジュースを飲みながら走り回っていた。

帰りの車の中で、

後部座席に座っていた8歳の息子が、

突然そう言った。

「庭でBBQができる家に住みたい。」

僕と妻は顔を見合わせた。

そのときは、

「いいねえ」

と笑っただけだった。

まさか、その一言が、

僕たちが家を買い替えるきっかけになるとは思っていなかった。

マンション生活に、不満はなかった

僕は40歳。

都内のメーカーで働いている。

妻は38歳で、週4日、横浜市内の会社で事務の仕事をしている。

子どもは8歳の息子と、5歳の娘。

4人で暮らしていたのは、川崎市内の分譲マンションだった。

駅から近い。

スーパーもある。

保育園も学校も遠くない。

ゴミ出しも楽。

宅配ボックスもある。

冬は暖かい。

防犯面でも安心感がある。

マンションを買った当時は、

「もう一生ここでいいよね」

と妻と話していた。

本当に、

大きな不満はなかった。

ただ、

子どもが大きくなるにつれて、

少しずつ窮屈さを感じるようにはなっていた。

走るな。

飛ぶな。

ボールを投げるな。

廊下では静かに。

ベランダでは騒がない。

息子が友達を連れてくると、

僕も妻も無意識に、

「下の人に響かないかな」

と気にしていた。

生活に困っているわけではない。

でも、

いつの間にか、

家の中で「やってはいけないこと」が増えていた。

BBQくらい、どこでもできると思っていた

息子に言われたあとも、

僕はしばらく、

家を買い替えるほどのことではないと思っていた。

BBQならキャンプ場でもできる。

河川敷でもできる。

友達の家へ行ってもいい。

わざわざ家を買う必要はない。

そう思っていた。

でも、ある休日。

マンションのベランダから外を見ながら、

ふと考えた。

もし庭があったら、

何をするだろう。

BBQ。

夏なら、小さなプール。

娘が縄跳びをする。

息子が友達と何か作る。

朝、コーヒーを持って外に出る。

大したことではない。

でも、

どれも今の家ではできないことだった。

僕は初めて、

「庭が欲しい」のではなく、

「家の中だけで生活が終わらない家が欲しい」のかもしれない、

と思った。

最初は、半分くらい冷やかしだった

妻に、

「戸建て、ちょっと見てみる?」

と聞いた。

妻は驚いた顔をした。

「本気?」

「いや、見るだけ。」

最初は本当にその程度だった。

不動産サイトで、

今の生活圏から大きく離れない場所を探した。

条件は、

都内へ通勤できること。

駅まで歩けること。

小学校が遠すぎないこと。

そして、

できれば外で何かできるスペースがあること。

そこで出てきたのが、

横浜市青葉区の藤が丘だった。

田園都市線。

駅から徒歩圏。

落ち着いた住宅街。

僕も妻も、

名前は知っていた。

でも、

住む場所として考えたことはなかった。

5,000万円台で戸建てが買える

最初に見たとき、

妻が言った。

「意外と現実的じゃない?」

今のマンションを売却すれば、

ローン残高を差し引いても多少の資金は残る。

共働きを続ければ、

5,000万円台の戸建てなら、

まったく手が届かない金額ではない。

もちろん、

今より通勤時間は少し長くなる。

マンションのように、

駅前に何でもそろっているわけでもない。

それでも、

「戸建てって、もっと遠くへ行かないと買えないと思ってた」

と妻は言った。

僕も同じだった。

角地だった

現地へ行って、

最初に気になったのは、

家そのものより敷地の位置だった。

角地。

二方向が道路に接している。

隣の家とべったり囲まれている感じが、

思っていたより少なかった。

僕は営業担当者の説明を聞きながら、

別のことを考えていた。

ここなら、

庭先でBBQをしても、

少し気が楽かもしれない。

もちろん、

何をしてもいいわけではない。

煙や匂い、

時間帯、

近所への配慮は必要だ。

でも、

マンションのベランダでBBQをするのとは全く違う。

すぐ隣の部屋に住んでいる人を気にしながら、

何もできない生活ではない。

道路側に開けた場所があるだけで、

家の外の使い方がずいぶん変わるように思えた。

息子はそんなことは知らない。

ただ、

「ここで肉焼ける?」

と聞いた。

僕は笑った。

「たぶんな。」

広い庭ではなかった

正直に言えば、

僕がイメージしていた「庭付き一戸建て」とは少し違った。

敷地は約84平方メートル。

豪邸でもない。

広い芝生があるわけでもない。

サッカーができるような庭でもない。

でも、

考えてみれば、

僕たちはそんなものを求めていなかった。

週末にテーブルを出せる。

小さなプールを置ける。

植木鉢を並べられる。

子どもが少し外に出られる。

それで十分だった。

大きすぎる庭は、

むしろ手入れが大変かもしれない。

「これくらいがいいのかもね」

妻が言った。

僕もそう思った。

マンションを手放す怖さ

とはいえ、

話が具体的になるほど、

不安も出てきた。

今のマンションは便利だった。

駅まで近い。

エレベーターに乗れば家に着く。

共用部の掃除もしなくていい。

庭の手入れもない。

修繕も管理組合が考えてくれる。

戸建てなら、

全部自分たちでやることになる。

屋根。

外壁。

庭。

設備。

防犯。

妻は、

「今の家を売ってまで移る必要あるかな」

と何度も言った。

僕も同じことを考えた。

今の生活は、

十分うまくいっている。

わざわざ変える必要があるのか。

「便利」と「楽しい」は、少し違う

ある晩、

家族で夕飯を食べていたとき、

息子がまた言った。

「あの家になったら、いつBBQする?」

もう住む前提だった。

妻が笑った。

「まだ買ってないよ。」

「じゃあ買ったら?」

「夏かな。」

「友達呼んでいい?」

「一人くらいならね。」

その会話を聞きながら、

僕は少しだけ答えが見えた気がした。

今のマンションは、

便利だ。

間違いなく便利だ。

でも、

便利であることと、

暮らしていて楽しいことは、

少し違うのかもしれない。

駅に近いこと。

宅配ボックスがあること。

ゴミをいつでも出せること。

それは生活を楽にしてくれる。

一方で、

庭で肉を焼くこと。

子どもが外に出ること。

友達を呼ぶこと。

夏にプールを出すこと。

そういうものは、

生活を楽にはしてくれない。

むしろ、

片付けも増える。

掃除も増える。

面倒なことも増える。

でも、

思い出にはなる。

引っ越して最初の夏

引っ越しが終わったのは、

梅雨が明ける少し前だった。

段ボールが全部片付く前から、

息子は聞いてきた。

「BBQいつ?」

僕は、

「来週。」

と答えた。

その約束だけは、

引き延ばせない気がした。

土曜日。

ホームセンターで小さなBBQコンロを買った。

テーブルと椅子を出す。

妻が野菜を切る。

息子が炭を触ろうとして怒られる。

娘はジュースをこぼす。

火はなかなかつかない。

煙が僕の方にばかり来る。

思っていたより、

全然おしゃれではなかった。

それでも、

息子はずっと楽しそうだった。

「次、いつやる?」

まだ肉を焼いている途中なのに聞いてきた。

「今日終わってから考えろよ。」

僕が言うと、

妻が笑った。

角地でよかったと思った

夕方になって、

少し風が出てきた。

道路側は開けていて、

思ったより圧迫感がない。

僕は椅子に座って、

家を見上げた。

以前のマンションなら、

この時間、

ベランダから外を眺めていたかもしれない。

下の階を気にして、

子どもたちに静かにしろと言っていたかもしれない。

今は、

息子と娘が家の横を走っている。

もちろん、

近所に迷惑をかけないように声はかける。

でも、

以前とは少し違う。

「静かにしなさい」ではなく、

「車来るから気をつけろよ」

になった。

それが、

妙に嬉しかった。

あの一言がなかったら

肉を食べ終えて、

片付けをしていると、

息子が言った。

「やっぱ戸建ていいね。」

8歳が、

どこまで分かっているのかは知らない。

僕は笑って、

「お前がBBQしたいって言ったからだぞ。」

と言った。

「ほんと?」

「ほんと。」

妻が横から、

「半分くらいはね。」

と言った。

たしかに、

家を買う理由としては、

少し弱いのかもしれない。

庭でBBQがしたい。

それだけで何千万円もの家を買う人はいないだろう。

でも、

たぶん、

きっかけなんてそんなものだ。

その一言がなければ、

マンション生活の小さな不自由にも気づかなかった。

庭のある暮らしを想像することもなかった。

藤が丘という街を、

住む場所として調べることもなかった。

僕は片付けの終わった小さな庭を見た。

広くはない。

でも、

僕たちには十分だった。

マンションから戸建てへ。

生活は、

少し不便になった。

掃除する場所も増えた。

駅まで歩く距離も増えた。

それでも、

家族で外に出る時間は増えた。

そして、

今年の夏から、

我が家の予定表には、

新しい予定が加わった。

「次のBBQ、いつにする?」

家を買った理由としては、

それくらいで、

ちょうどよかった。

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