次の家は、最後まで住める平屋に。50代夫婦がせんげん台で選んだ駅徒歩5分の新築戸建て

埼玉

「この家、あと何年住むんだろうね」

妻がそう言ったのは、

二階のベランダから洗濯物を取り込んでいたときだった。

僕は53歳。

妻は51歳。

結婚して28年になる。

子どもは二人。

長男は社会人になって家を出た。

次女は大学4年生で、

来年から都内で働くことが決まっている。

つまり、

もうすぐこの家には、

僕と妻しかいなくなる。

4LDKが必要だった頃

今の家を買ったのは、

僕が31歳のときだった。

まだ長男が3歳。

妻は次女を妊娠していた。

4LDKの二階建て。

小さいながら庭もあった。

当時は、

この家が狭いくらいに感じていた。

子どものおもちゃ。

ベビーカー。

自転車。

ランドセル。

部活の道具。

いつも何かが床に置いてあった。

二階には子ども部屋を二つ作った。

もう一部屋は僕の書斎。

家族4人で暮らすには、

それくらい必要だった。

休日になると、

子どもたちが階段を走り回った。

妻は何度も、

「危ないから走らない!」

と怒っていた。

あの頃の僕たちにとって、

階段は家族の生活の一部だった。

気づけば、二階へ行かなくなった

長男が家を出て、

次女も家にいる時間が減った。

二階にある子ども部屋は、

ほとんど使われなくなった。

僕の書斎も、

今では物置に近い。

それでも、

掃除はしなければならない。

窓も開ける。

エアコンのフィルターも掃除する。

妻は毎朝、

洗濯物を持って階段を上がる。

ある日、

妻が階段を上りながら、

「これ、70歳でもやるのかな」

と言った。

僕は笑った。

でも、

その言葉が少し残った。

老後という言葉が、現実になってきた

50代になってから、

友人との会話も変わった。

子どもの受験。

住宅ローン。

仕事。

そんな話ばかりだったのが、

最近は、

親の介護。

健康診断。

退職後。

そんな話が増えた。

自分では、

まだ若いつもりでいる。

でも、

あと10年もすれば60代。

20年後には70代だ。

今の家を買ったとき、

70歳の自分なんて想像しなかった。

家を選ぶ基準は、

「子ども部屋があるか」

「駐車場があるか」

「学校が近いか」

そんなものだった。

でも今は違う。

これから家を選ぶなら、

自分たちが年を取ったときのことも、

考えなければならない。

妻が言った。「平屋、いいんじゃない?」

ある休日。

妻がスマートフォンを見せてきた。

「こういうのどう?」

画面に映っていたのは、

平屋だった。

「平屋?」

僕は少し意外だった。

平屋というと、

田舎の広い土地に建つ家を想像していた。

あるいは、

老夫婦が住む家。

少なくとも、

自分たちが今住む家として考えたことはなかった。

「まだ早くない?」

僕が言うと、

妻は笑った。

「階段がつらくなってから探すの?」

確かに。

その通りだった。

平屋を探すと、駅から遠くなった

そこから、

なんとなく平屋を探し始めた。

でも、

思ったより難しかった。

平屋は土地が必要になる。

駅から近い場所では、

土地そのものが高い。

少し郊外へ行けば、

広い土地の平屋は見つかる。

でも、

今度は駅から遠くなる。

車がないと生活できない場所も多い。

妻が言った。

「今は運転できるけど、80歳でも車乗ってるかな」

僕も同じことを考えた。

平屋にして、

家の中は暮らしやすくなった。

でも、

買い物も病院も駅も、

全部車が必要。

それでは、

将来のために平屋を選ぶ意味が、

少し違ってしまう気がした。

せんげん台駅、徒歩5分

そんなときに見つけたのが、

せんげん台の平屋だった。

駅まで徒歩5分。

スーパーも歩いて行ける。

それなのに、

平屋。

最初に見たとき、

妻が言った。

「こんなのあるんだね」

僕もそう思った。

土地は約46坪。

駐車場は2台分。

3LDK。

LDKは19帖以上ある。(realestate.yahoo.co.jp)

広すぎるわけではない。

でも、

夫婦二人で暮らすには十分だった。

玄関を入って、階段がない

初めて内覧した日。

僕は、

少し不思議な感覚になった。

玄関を入る。

廊下を歩く。

リビング。

寝室。

洗面所。

浴室。

全部、

同じ階にある。

当たり前なのに、

妙に新鮮だった。

妻は家の中を歩きながら、

「楽だね」

と何度も言った。

洗濯する。

干す。

取り込む。

片付ける。

全部、

同じ高さで済む。

掃除機を持って階段を上がることもない。

忘れ物をして、

二階へ戻ることもない。

今は、

そんなことに困っていない。

でも、

20年後には、

この違いが大きいのかもしれない。

3LDKでいい

今の家は4LDK。

新しい家は3LDK。

数字だけ見れば、

小さくなる。

でも、

僕たちにはもう、

子ども部屋を二つ用意しておく必要はない。

夫婦の寝室。

僕の部屋。

妻の部屋。

それで3LDK。

長男や次女が泊まりに来たときは、

どちらかの部屋を使えばいい。

妻が言った。

「子どもが帰ってくるために、ずっと部屋を空けておく必要もないよね」

少し寂しい気もした。

でも、

そういうことなのだと思う。

家族の形が変われば、

家の形も変わっていい。

子どもたちの反応は、意外だった

二人に、

家を買い替えようと思っていると話した。

長男は、

「なんで?」

と言った。

次女は、

「今の家売るの?」

と少し寂しそうだった。

二人にとっては、

生まれ育った家だ。

長男の部屋には、

高校時代に貼ったステッカーがまだ残っている。

次女の部屋には、

壁に小さな傷がある。

子どもの頃に、

椅子をぶつけてつけた傷だ。

僕たちより、

子どもたちの方が、

この家への思い入れは強いのかもしれない。

妻は言った。

「お父さんとお母さん、もう二人で住むんだから」

長男は少し考えて、

「まあ、平屋いいじゃん」

と言った。

次女も、

「遊びに行けるならいい」

と言った。

その一言で、

少し気持ちが軽くなった。

「終の棲家」という言葉は、まだ使いたくない

不動産会社の人から、

「終の棲家としてもいいですね」

と言われた。

僕は、

少しだけ違和感があった。

終の棲家。

確かに、

この家を最後の家にするつもりではいる。

でも、

まだ53歳だ。

妻も51歳。

人生が終わる準備をしているわけではない。

むしろ、

これから始まる生活のために、

家を変えようとしている。

子どもの予定に合わせなくていい。

学校の近くに住む必要もない。

子ども部屋もいらない。

今度は、

夫婦二人が住みたい家を選べる。

そう考えると、

少し楽しくなった。

小さくする代わりに、広く使う

平屋に引っ越してから、

生活は少し変わった。

朝。

寝室からリビングへ行く。

コーヒーを飲む。

そのまま外へ出る。

休日には、

庭に椅子を出す。

妻は、

植物を育て始めた。

僕は、

以前より車を洗うようになった。

今の家より部屋数は減った。

でも、

家を使っている感じは、

むしろ増えた。

二階に、

使われない部屋がない。

どの部屋にも、

毎日の生活がある。

初めて、二階のない夜を過ごした

引っ越して最初の夜。

夕飯を食べて、

テレビを見て、

風呂に入った。

妻が、

「なんか変な感じ」

と言った。

「何が?」

「上に何もない」

僕も分かった。

二十年以上、

二階建ての家に住んできた。

上には、

いつも誰かがいた。

子どもが歩く音。

ドアを閉める音。

階段を降りてくる音。

今は、

何もない。

少し静かだった。

妻が、

「寂しい?」

と聞いた。

僕は、

「ちょっとな」

と答えた。

妻も、

「私も」

と言った。

でも、

嫌な静けさではなかった。

次の30年

家を買うとき、

30年後のことを考えたのは、

今回が初めてだった。

31歳のときは、

今日と明日のことで精一杯だった。

子どもを育てる。

仕事をする。

ローンを払う。

家族4人で暮らす。

それだけだった。

53歳になって、

初めて少し先を見る余裕ができた。

70歳。

80歳。

その頃、

どんな生活をしているかは分からない。

でも、

朝起きて、

階段を使わずにリビングへ行ける。

歩いて駅へ行ける。

買い物にも行ける。

庭に出られる。

そんな生活なら、

少し想像できる。

妻が、

「ここなら最後まで住めそうだね」

と言った。

僕は、

「最後って言うなよ」

と笑った。

まだ、

これからだ。

子どもが独立して、

夫婦二人になった。

家を小さくした。

階段もなくした。

でも、

暮らしを縮めたつもりはない。

むしろ、

これからの僕たちに必要なものだけを残した。

子どものために選んだ最初の家から、

夫婦のために選ぶ次の家へ。

50代で平屋に住み替えるというのは、

老後の準備ではなく、

これからの30年を、

もう一度自分たちで選び直すことなのかもしれない。

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