アフォーダブル住宅とは?東京23区で子育て世帯が3,980万円の中古マンションを選んだ理由

東京

「7,000万円までなら、借りられると思います」

住宅ローンの相談に行ったとき、担当者はそう言った。

夫は37歳。妻は35歳。6歳の長男と3歳の娘がいる。夫婦の世帯年収は約900万円。二人とも正社員で働いている。

銀行から見れば、もっと高い家を買うこともできる家族だった。

でも妻は、その数字を聞いたあと、夫に小さな声で言った。

「借りられる金額と、返していい金額って違うよね」

夫も、同じことを考えていた。

東京で4人家族が暮らす家を探した

家を買おうと思ったきっかけは、長男の小学校入学だった。

それまで暮らしていたのは、江戸川区内にある2LDKの賃貸マンション。家賃は駐車場を合わせて月17万円ほどだった。

子どもが小さいうちは、それほど狭いとは感じなかった。でも、長男が小学生になると、ランドセルを置く場所が必要になる。学習机も欲しい。3歳の娘も、そのうち自分のスペースを欲しがるだろう。

そろそろ3LDKくらいの家が必要だと思った。

最初は新築マンションを見た。

モデルルームはきれいだった。キッチンも広い。収納も多い。駅にも近い。

妻も楽しそうだった。

ただ、価格表を見ると、その気持ちは急に現実へ戻った。

6,000万円台。7,000万円台。条件が良ければ、それ以上。

「東京ってこんなに高かったっけ」

夫が言うと、妻は苦笑いした。

世帯年収900万円。

決して低い収入ではないと思っていた。

それでも、4人家族が東京で普通に暮らせる家を買おうとすると、簡単ではなかった。

7,000万円を借りたあとの生活

住宅ローンのシミュレーションを何度もした。

月々の返済。

管理費。

修繕積立金。

固定資産税。

駐車場。

そこに、二人分の保育料や教育費が加わる。

旅行にも行きたい。

車もいつか買い替える。

長男が中学生になれば塾にも通うかもしれない。

娘が大学へ行きたいと言うかもしれない。

妻は表計算の画面を見ながら言った。

「家のために全部使うの、嫌だな」

夫もそう思った。

家を買ったあとに、毎月の支払いばかりを気にする生活にはしたくなかった。

子どもが「旅行に行きたい」と言ったとき、住宅ローンを理由に断りたくない。

習い事をしたいと言ったとき、「家を買ったから無理」とも言いたくない。

だから夫婦は、最初に決めた。

銀行が貸してくれる金額ではなく、自分たちが無理なく返せる金額から家を探そう。

「アフォーダブル住宅」という言葉を知った

そんなとき、夫がネットで見つけたのが「アフォーダブル住宅」という言葉だった。

直訳すれば、「手の届く価格の住宅」。

東京都などが使う場合は、主に子育て世帯などが無理のない負担で暮らせる賃貸住宅を指している。

けれど夫は、その考え方そのものに興味を持った。

高い家を買うことではなく、住居費を払いながら普通の生活を続けられること。

それなら、自分たちが探しているのも、ある意味では「アフォーダブルな家」なのではないかと思った。

もちろん、制度としてのアフォーダブル住宅と、一般の中古マンション購入は同じものではない。

それでも、

「家を買えるか」ではなく、

「家を買ったあとも暮らせるか」

という考え方は、夫婦にしっくりきた。

新築をやめたら、選択肢が増えた

そこから、中古マンションも見るようになった。

築10年。

築15年。

築20年。

最初は妻も少し抵抗があった。

「せっかく買うなら新築がいい」

その気持ちは夫にも分かった。

でも何件か見ていくうちに、考え方が変わってきた。

築年数が経っていても、管理状態が良ければ十分きれいなマンションもある。

室内は後からリフォームできる。

設備も交換できる。

そして何より、価格が違った。

そこで見つけたのが、江戸川区松江にある中古マンションだった。

価格は3,980万円。

専有面積は約71平方メートル。

2SLDK。

築22年。

船堀駅までは徒歩20分だった。

駅徒歩20分

夫が最初に気になったのは、そこだった。

「20分か」

これまで夫婦が探していたのは、駅徒歩10分以内だった。

できれば5分。

駅は近い方がいいに決まっている。

でも、その条件を付けるたびに価格は上がった。

駅徒歩20分という条件を受け入れると、東京23区内でも約71平方メートルの家が4,000万円を切る。

妻は言った。

「毎日駅まで20分歩くのと、毎月あと10万円払うの、どっちが嫌?」

夫は笑った。

答えは、意外とすぐに出た。

全部を手に入れなくていい

現地を見に行った。

駅から実際に歩いてみる。

確かに近くはない。

夏は暑いだろう。

雨の日もある。

それでも、歩けない距離ではなかった。

そして家の周辺には、スーパーが徒歩4分、コンビニが徒歩3分。日常の買い物は駅まで行かなくても済む。

部屋は南向き。

約71平方メートル。

子ども二人と暮らす広さとしては十分だった。

妻がリビングに立って言った。

「普通にいいよね」

その「普通に」が、夫には妙にしっくりきた。

豪華ではない。

新築でもない。

駅近でもない。

でも、家族4人で普通に暮らせる。

それでいいのではないかと思った。

3,980万円にした理由

もちろん、もっと高い家も買えた。

ローンを増やせば、新築も選べた。

駅徒歩5分のマンションも探せた。

でも夫婦は、この家に決めた。

理由は、

3,980万円だからだった。

安いから、ではない。

住宅費以外にもお金を使えるからだった。

毎年一度は家族旅行へ行く。

子どもがやりたいと言った習い事をやらせる。

大学へ行きたいと言ったら、できるだけ応援する。

たまには外食する。

夫婦それぞれにも、自分のために使えるお金を残す。

家を買うことは、生活の目的ではない。

生活するために、家を買う。

その順番を変えたくなかった。

引っ越して最初の給料日

新しい家に引っ越して、最初の給料日。

妻が家計簿を見ながら言った。

「思ったより普通だね」

夫は、

「何が?」

と聞いた。

「家買ったのに、普通に生活できる」

二人で笑った。

住宅ローンが始まった。

管理費も修繕積立金もある。

以前より増えた支出もある。

それでも、家計が住宅費だけでいっぱいになるわけではなかった。

週末には家族で外食もした。

長男の習い事も続けられた。

来年の旅行についても話した。

家を買ったのに、

暮らしは大きく変わらなかった。

それが、夫婦には嬉しかった。

駅から歩く20分

夫は毎朝、駅まで歩く。

最初は少し長いと思った。

でも、慣れてくると、それほど気にならなくなった。

イヤホンでニュースを聞く。

仕事のことを考える。

帰り道には、コンビニへ寄る。

駅徒歩5分だったら、

この時間はなかったかもしれない。

もちろん、

「駅近の方がよかったな」

と思う雨の日もある。

でもそのたびに、

7,000万円のマンションを買っていた場合の住宅ローンを思い出す。

そして、

「まあ、歩くか」

と思う。

アフォーダブルな家とは、安い家ではない

夫婦が買った中古マンションは、東京都の制度として提供される「アフォーダブル住宅」ではない。

ただ、彼らが家を選ぶときに大切にしたのは、同じような考え方だった。

手が届くこと。

そして、

手に入れたあとも無理なく暮らせること。

新築を諦めた。

駅徒歩10分も諦めた。

でも、

子ども部屋をつくれる広さは諦めなかった。

東京23区に住むことも諦めなかった。

家族旅行も諦めなかった。

教育費も諦めなかった。

全部を手に入れようとしなかったから、

本当に必要なものを残すことができた。

「もっと高い家、買えたよね」

ある日、友人が遊びに来た。

家を買った話をすると、

「二人とも働いてるなら、もっと高いところ買えたでしょ」

と言われた。

夫は、

「たぶんね」

と答えた。

確かに、買えた。

でも、買わなかった。

リビングでは、

長男が妹と遊んでいる。

妻はキッチンでコーヒーを淹れている。

翌月には、家族で温泉旅行へ行く予定がある。

住宅ローンの残高はある。

でも、それを見て眠れなくなることはない。

夫は思った。

家の値段は、

高いほどいいわけではない。

広ければいいわけでも、

駅に近ければいいわけでもない。

自分たちの収入で、

自分たちらしい生活を続けられること。

それが、この家族にとっての「アフォーダブル」だった。

家を買ったあとも、

普通に暮らせる。

夫婦が選んだのは、

そんな家だった。

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