田中奈緒が最初に多摩センターを「住む場所」として見た時、不動産担当者は少し驚いた顔をした。
「都心から離れていますが、大丈夫ですか」と聞かれた。「大丈夫です」と奈緒は即答した。「ここじゃないと意味がないので」
ピューロランドのそばに住む
奈緒は34歳。都内のアパレル企業でMDをしている。サンリオが好きだ。正確に言うと、サンリオピューロランドが好きだ。20代の頃から年間パスポートを持ち続けて、月に4〜5回は通ってきた。
今まで世田谷区の賃貸に住んでいた。ピューロランドまで電車で40分かかっていた。それが10年間のデフォルトだったが、ある時ふと計算した。月5回、往復80分。年間で800分、13時間以上を移動に使っている。「その時間を、もっと中で使いたい」と思った。
多摩センターに住めば、歩いて5分で着く。思い立った時に行ける。閉園後に少し寄ることもできる。その計算が、奈緒の中で住み替えの動機になった。
なぜ2LDKなのか
奈緒は独身で、一人暮らしだ。1LDKで十分という意見もある。でも奈緒は最初から2LDKを探していた。理由は明確だ。もう1部屋を、完全な趣味部屋にするためだ。
今の世田谷の部屋では、サンリオグッズを置く場所が足りなかった。棚に溢れ、クローゼットに積み上がり、リビングの一角を侵食していた。「ちゃんとした部屋が必要だ」という結論に、数年前から至っていた。
もう1部屋は、飾るための部屋になる。棚を設置して、グッズをジャンル別に並べる。ぬいぐるみに光が当たるようにライトを置く。コーデを考える時間、写真を撮る時間、ただ眺める時間。それが生活の中に組み込まれる。
4,799万円の物件
多摩市落合1丁目。クロスウィル多摩センター6階、南西向き。2007年築だが、2026年2月にキッチン・浴室・トイレ・床・クロスを全面リノベーション済みで、内側はほぼ新築の状態だ。64㎡の2LDK、床暖房、ディスポーザー、ウォークインクローゼット。ペット可なのも大事だった。
頭金800万円を入れて35年ローンを組むと、月々約13万円。管理費と修繕積立金を合わせて月約2.4万円の追加になる。世田谷の家賃より少し高くなるが、「積み上がるものができる」という感覚と、「毎日の移動時間が消える」という感覚が、その差を上回った。
多摩センターという街
多摩センターは、サンリオピューロランドとサンリオワールドが駅直結で存在するエリアだ。街のあちこちにキャラクターがいる。住んでいる人の中にも、同じ理由でここを選んだ人が一定数いると、奈緒は引越し後に知った。
ピューロランドに行く日、奈緒は仕事が終わってから着替えて、歩いて向かう。その距離が、生活の中に溶け込んでいる。特別なことではなくなった。
「好き」を中心に住む場所を選ぶことを、贅沢だと思う人もいるかもしれない。でも奈緒にとっては、それが一番合理的な選択だった。
4,799万円は、「好き」の近くに住む値段だと思っている。
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