羽田まで、4分 ── 大田区萩中8,000万円と、あるパイロットの地上の話

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羽田まで、4分 ── 大田区萩中8,000万円と、あるパイロットの地上の話

中村隆之の「家」の条件は、一つだけだった。

羽田空港に近いこと。それだけだ。

糀谷駅から京急空港線に乗ると、羽田空港国内線ターミナルまで2駅、約4分で着く。大田区萩中1丁目。駅まで歩いて6分。この物件を見た瞬間、隆之は「ここしかない」と思った。

年間200日、空にいる男の話

隆之は41歳。国内系航空会社のキャプテンで、ボーイング737型機を操縦している。副操縦士を経てキャプテンになってから5年が経つ。独身で、ここ10年は大田区内の賃貸を転々としてきた。

パイロットの勤務は不規則だ。早朝4時台に空港に入ることもあれば、深夜に帰宅することもある。長距離路線の後は数日間のレイオーバー(待機)があり、国内の宿泊先から直接出勤することも多い。「家に帰れる日は、できるだけ早く帰りたい」というのが、正直な気持ちだった。

羽田まで4分という数字は、隆之にとって単なる利便性ではない。早朝のブリーフィングに遅刻しないこと、乗務後に疲れた体を最短で休ませること、それが生活の質に直結する。

3LDKを一人で買う理由

1LDKでよかったのでは、と友人に言われた。

隆之は首を振った。パイロットには荷物がある。フライトバッグ、制服一式、緊急時の装備品、各路線のマニュアル類。これだけで一部屋埋まる。もう一部屋はシミュレーター訓練の資料や技術書の書斎にしたい。LDKで寝起きできれば、3LDKでも一人で回せる。

8,000万円という価格を、隆之は「合理的な数字」だと判断した。頭金2,000万円を入れて25年ローンを組むと月々約25万円。今の家賃より高くなるが、「賃貸で払い続けるより資産になる方がいい」という計算と、「これ以上羽田に近い場所はない」という確信があった。

地上での時間の使い方

乗務のない日、隆之は意識的に「何もしない時間」を作る。シミュレーター訓練や定期審査で常に緊張状態にある仕事柄、オフは完全にオフにしないと体が持たない。

南向き8階からの眺望は、飛行機の見える角度ではないが、それでいいと思っている。仕事中は十分すぎるほど空を見ている。家では地面を見ていたい。

萩中商店街が近くにあって、食材を買える。糀谷商店街も歩ける距離だ。乗務前夜は自炊して早めに寝る、という習慣が、ここならやりやすい。

帰る場所

パイロットは「帰る場所」の意味が、一般の人とは少し違うかもしれない、と隆之は思う。

出発ゲートを抜けるたびに、どこかに向かう。でも必ず戻ってくる場所がある。それが自分のものになった部屋だ、ということが、40代になって初めて大事に感じるようになった。

8,000万円は、その「帰る場所」に対して払った値段だ。

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