マイケル・田中は、東京に来るたびにホテルに泊まっていた。
ニューヨークに本社を置く投資銀行で20年以上働いてきた。ロンドン、香港、シンガポール。拠点が変わるたびに、その街のホテルのスイートルームが「家」だった。でも46歳で日本法人のカントリーヘッドに就任した時、初めて「ここに腰を落ち着けるべきかもしれない」と思った。
なぜ東京なのか
マイケルは日系アメリカ人の2世だ。祖父母が戦前に渡米し、両親はロサンゼルスで育った。マイケル自身は英語が母国語で、日本語は聞いて理解できる程度だった。
それでも東京に縁があった。入行後、アジア担当として何度も日本に来た。クライアントとの関係が深く、東京市場への理解は社内でも評価されていた。カントリーヘッドのオファーを受けた時、断る理由がなかった。
任期は最低3年、状況によってはそれ以上になる。だとすれば、ホテルではなく「住む場所」を持つべきだという判断になった。会社の住宅手当は潤沢にある。問題は、どこを選ぶかだった。
三田ガーデンヒルズという選択
港区三田1丁目。麻布十番まで徒歩7分、赤羽橋まで7分、田町まで16分。
不動産の担当者に条件を伝えた。セキュリティが最高水準であること、管理が行き届いていること、東京の中で最も信頼できる場所であること。価格は条件ではなかった。
三田ガーデンヒルズは2024年竣工、大成建設施工、三井不動産レジデンシャルサービスが管理する。総戸数1,002戸、24時間有人管理。マイケルがこれまで滞在してきた世界の高級ホテルと比べても、エントランスの質感は劣らなかった。
4階、2LDK、80.03㎡。4億7,998万円。
ニューヨークのトライベッカや、ロンドンのナイツブリッジで同等のものを買えば、この価格では済まない。東京のプレミアム不動産は、まだグローバルスタンダードより割安だという認識がマイケルにはある。
5億円の部屋に住む感覚
「高い買い物だとは思っていない」とマイケルは言う。
管理費と修繕積立金を合わせると月約15万円になる。それを含めたランニングコストは、ニューヨーク本社が手配するホテルスイートの月額費用より安い。しかも資産として手元に残る。
2LDKという間取りは、一人で住むには十分だ。もう一部屋はニューヨークから同僚が来た時の客間にする。ゲストルームが建物内にあることも知っているが、それより自室に泊まれる場所がある方がいいと思っている。
同じ建物の上の階
エレベーターに乗る時、行先階のボタンを押しながら、時々上の方の数字を見る。12階には8億5,000万円の部屋がある。10階には21億6,800万円の部屋がある。
「いつかあの階に住む人間になりたい、とは思わない」とマイケルは言う。「でも同じ建物にそういう部屋が存在するという事実が、この建物の性格を示している」
麻布十番の朝
引越し後の最初の週末、マイケルは歩いて麻布十番商店街まで行った。豆腐屋があった。和菓子屋があった。小さなバーがあった。
ニューヨークにもロンドンにも、こういう密度の商店街はない。高級住宅街の隣に庶民的な商店街がある。それが東京の面白さだとマイケルは思った。
祖父母が生まれた国で、初めて「家」を持った。
4億7,998万円は、その感覚のための値段だ。
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