木村誠一が吉祥寺に初めて来たのは、大学に入った年の春だった。
調布から井の頭線に乗って20分。改札を出た瞬間、「ここに住みたい」と思った。商店街の雑踏、公園の木漏れ日、古本屋と輸入レコード店が隣り合わせに並ぶあの密度。それが何なのかは言葉にできなかったが、ここは自分が好きな種類の場所だ、とはっきりわかった。
それから20年以上、誠一は吉祥寺に住めなかった。
20年越しの住所
誠一は44歳。都内のデザイン事務所でアートディレクターをしている。仕事は好きで、フリーランスを経て今の事務所に落ち着いた。独身のまま気がついたら40代になっていた。
ずっと中野や高円寺の賃貸を転々としてきた。吉祥寺は家賃が高すぎる、と思っていた。でも40代になって、「このまま賃貸で払い続けるより、どこかに根を張った方がいい」という気持ちが強くなってきた。それなら吉祥寺北町はどうか、と不動産屋に言われた時、何かが噛み合った感覚があった。
吉祥寺北町3丁目という場所
吉祥寺の駅から歩いて21分。正直、遠い。でも三鷹駅からなら18分で、どちらからも歩けなくはない距離だ。
北町3丁目は、吉祥寺の喧騒から少し外れた住宅街だ。静かで、道が整っていて、緑が多い。吉祥寺の「中心」ではないが、吉祥寺の「気圏」には確実に入っている。週末に井の頭公園を歩きたい時、ハーモニカ横丁で一杯飲みたい時、その場所まで20分で歩いて行ける。それで十分だった。
築35年、フルリノベ済み
1992年築の熊谷組施工、鉄筋コンクリート造。2025年12月に全面リノベーション済みで、キッチン・浴室・トイレ・全室のクロスと建具が新しくなっている。内見した日、「築35年とは思えない」という感想が正直なところだった。
南西向きの角住戸で、57㎡の1SLDK。サービスルームを仕事部屋にする。アートディレクターの仕事は紙や資料が増えるので、独立したスペースがあることが長年の夢だった。
管理費と修繕積立金が合わせて月約5.5万円かかるのは、単身には少し重い。でも頭金1,000万円を入れて35年ローンを組むと月々約12万円。今の家賃より高くなるが、「積み上がるものができる」という感覚に20年越しで決断した。
ペット可という条件
実はもう一つ、理由がある。
誠一は猫を飼いたかった。ずっと。今まで住んできた賃貸はすべてペット不可で、それが何年も引っかかっていた。この物件はペット可だ。
引越しの日取りが決まったら、猫を迎えるつもりでいる。名前はまだ決めていない。
吉祥寺北町の夜
仕事が終わって帰ってくる。駅から歩いて20分の道のりで、今日の仕事を少しずつ頭の外に出す。家に着くと猫がいる。南西向きの窓から、夜の武蔵野の空が見える。
44歳になってやっと、自分の住所が吉祥寺になる。
4,780万円は、20年分の「いつか」を「今」に変えた値段だ。

※物件情報は掲載時点のものです。売約済みや価格変更の場合があります。最新情報はYahoo!不動産の物件ページでご確認ください。記事中の月々返済額はシミュレーションによる目安であり、実際の返済額は借入条件により異なります。
※本記事はフィクションです。登場人物・エピソードはすべて架空のものです。本記事はアフィリエイト広告を含みます。掲載画像はイメージであり、実際の物件とは異なる場合があります。


