「売れた」と夫の亮介からLINEが来た時、妻の沙穂は仕事中だった。
「いくら?」と返すと、数字が届いた。画面を見た瞬間、声が出そうになって、口を押さえた。
2016年、東雲で買った部屋
亮介は40歳、外資系のコンサルティング会社に勤めている。沙穂は38歳、都内のIT企業でプロダクトマネージャーをしている。子どもはいない。二人とも仕事が好きで、それぞれのキャリアを優先してきた10年だった。
最初にマンションを買ったのは2016年。江東区東雲の湾岸タワマン、当時の価格は8,500万円だった。亮介が「湾岸は上がる」と言い張り、沙穂は「本当に?」と半信半疑で署名した。頭金を入れてローンを組んだ。当時の二人には、背伸びの買い物だった。
それから10年が経った。
含み益という現実
不動産価格が上がり続けていることは、ニュースで知っていた。でも自分のマンションがどれだけ上がっているかを、亮介は意識的に調べないようにしていた。「数字を知ると売りたくなる。売りたくなると判断が鈍る」と思っていたからだ。
査定を依頼したのは、去年の秋だった。不動産会社から返ってきた数字は1億6,800万円。8,500万円で買った部屋が、10年で約8,300万円値上がりしていた。
亮介はその数字をしばらく眺めた。売却益から税金を引いても、手元に相当な額が残る計算だった。「次の家を買える」ではなく、「次の家の頭金に使える」という話ではなかった。売却益だけで、かなりの物件に手が届く。
沙穂に話すと、「それって、マンションがマンションを買うってこと?」と言った。「そうなる」と亮介は答えた。
ブランズタワー豊洲という選択
売却を決めてから、次の物件を探し始めた。条件は一つだけだった。「今より上の物件に住む」。10年分の値上がりを、暮らしの質に変換する。それだけが目的だった。
ブランズタワー豊洲の11階を内見した日、エントランスに入った瞬間に空気が変わった。ラウンジの静けさ、管理の行き届き方、共用部の質感。東雲の部屋も悪くなかったが、明らかに違うものがあった。
豊洲駅から徒歩3分。有楽町線で銀座まで10分、新木場まで一本。二人の職場への動線は変わらない。2021年築の築5年、3LDK・76㎡。床暖房、ディスポーザー、食洗機、ゲストルーム完備。管理費と修繕積立金を合わせても月約4万円で、これだけの共用設備が使える。
2億5,800万円の内訳
売却益を頭金に入れ、残りをローンで組んだ。月々の返済は今の家賃水準から大きく変わらない。「実質的には、東雲の部屋が10年かけてブランズタワー豊洲に変わった」と亮介は言う。
SNSでたまに見かける「含み益で住み替えた」という話を、以前は他人事のように眺めていた。それが自分たちの話になるとは思っていなかった。
沙穂は「あの時署名してよかった」と言った。亮介は「そうだな」と答えた。2016年に半信半疑で押した判子が、10年越しにここまで連れてきた。
豊洲の夜
入居後の最初の夜、二人はラウンジに降りてコーヒーを飲んだ。静かで、清潔で、誰もいなかった。
「次はここを上回る場所に住めるのかな」と沙穂が言った。
亮介は少し笑って、「また10年後に考えよう」と答えた。
2億5,800万円は、10年前の判断が連れてきた値段だと思っている。
※物件情報は掲載時点のものです。売約済みや価格変更の場合があります。最新情報はYahoo!不動産の物件ページでご確認ください。記事中の月々返済額はシミュレーションによる目安であり、実際の返済額は借入条件により異なります。
※本記事はフィクションです。登場人物・エピソードはすべて架空のものです。本記事はアフィリエイト広告を含みます。掲載画像はイメージであり、実際の物件とは異なる場合があります。


