拓海の仕事は、画面の中に街をつくることだ。
ゲーム開発会社で背景デザイナーをしている。締め切り前は在宅勤務が続き、リビングの端に置いた机が職場になる。そのすぐ後ろで、5歳の息子と2歳の娘が遊んでいた。
妻の沙耶は33歳の保育士だ。仕事では子どもたちに思い切り遊んでほしいと願いながら、家では階下への音を気にして、わが子に「静かに」と言う。その矛盾が少しずつ苦しくなっていた。
郊外に行くことは、何かを諦めることではない
戸建てを探し始めた二人が譲れなかったのは、通勤だった。拓海は池袋方面、沙耶は都内の保育園へ通う。広さを求めて遠くへ行きすぎれば、家族で過ごす時間が減ってしまう。
和光市新倉一丁目の新築戸建は、和光市駅から徒歩10分。土地148.52㎡、建物102.26㎡の4LDKだった。
駅まで歩ける距離と、子どもたちが走れる広さ。その両方が一つの物件にあった。
まだ完成していない家に、暮らしを描く
価格は5,280万円。完成は2027年1月の予定で、内見できる完成済み住宅とは違い、図面や周辺環境から暮らしを想像する必要があった。
一室は拓海の仕事部屋にする。リビングに置いていた機材を移せば、仕事と家庭の境目ができる。残りの部屋は夫婦の寝室と、将来の子ども部屋。庭では夏に小さなプールを広げられるかもしれない。
「完成していないからこそ、家族の予定を先に置けるね」
沙耶はそう言って、図面の余白に家具の大きさを書き込んだ。
走る音を、成長の音として聞く
引っ越しはまだ少し先だ。それでも、子どもたちは新しい家の話をするたびに、どの部屋で眠るかを相談している。
拓海はときどき、制作中のゲームの街に小さな一戸建てを置く。窓の明かりを一つずつ描きながら、自分たちの家にも同じように灯りがともる日を想像する。
東京を離れることは、仕事や便利さから遠ざかることではなかった。家族の時間を守れる場所まで、暮らしの地図を少し広げることだった。
新しい家で最初に聞きたいのは、静けさではない。子どもたちが遠慮なく走る音だ。
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