海までの距離で、暮らしを決めた。鎌倉・腰越、海の近くの17坪。

神奈川

日曜日の夕方が、嫌いだった。

正確には、日曜日の夕方に家へ帰るのが嫌いだった。

海で遊んだ帰り道。

濡れたサンダルをビニール袋に入れて、砂のついた娘の足をタオルで拭いて、渋滞する国道134号線を横浜方面へ走る。

助手席では妻が眠っている。

後部座席では、娘も眠っている。

運転席の僕だけが、少しずつ日常へ戻っていく。

「いつか、このへんに住めたらいいよね」

妻は何度か、そう言った。

そのたび僕は、

「まあ、いつかね」

と答えていた。

その「いつか」が、本当に来るとは思っていなかった。

休日のために海へ行っていた

僕は38歳。

横浜にあるIT企業で働いている。

妻は36歳で、都内のアパレル会社に勤めている。

7歳になる娘と3人暮らしだ。

これまでは横浜市内の賃貸マンションに住んでいた。

駅から徒歩8分。

築浅。

2LDK。

スーパーもコンビニも近い。

職場にも出やすい。

客観的に見れば、何の不満もない家だった。

でも、休日になると僕たちはよく家を出た。

鎌倉。

逗子。

葉山。

江の島。

特に多かったのが、腰越だった。

江ノ電が道路の真ん中を走り、少し歩けば海がある。

昔からある魚屋の横に、小さなコーヒースタンドができていたりする。

観光地なのに、一本裏へ入ると普通に洗濯物が干してある。

僕はその感じが好きだった。

「湘南」という言葉から想像する、きらきらした場所とは少し違う。

ちゃんと人が生活している海の町だった。

夏だけではない。

冬の海も好きだった。

風が冷たい12月の朝に海岸を歩いて、温かいコーヒーを買う。

春は自転車で江の島まで行く。

秋は窓を開けて車を走らせる。

僕たちは一年のうち、かなりの休日をこの辺りで過ごしていた。

ある日の帰り道、妻が言った。

「毎週ここに来るんだったら、住んじゃった方が早くない?」

冗談みたいな一言だった。

でも、その夜。

僕は初めて、不動産サイトで「腰越」と検索した。

6,280万円。土地は17坪。

そこで見つけたのが、この家だった。

鎌倉市腰越3丁目。

新築一戸建て。

3LDK。

価格は6,280万円。

江ノ電の江ノ島駅から徒歩7分。

片瀬江ノ島駅も、湘南江の島駅も歩いて行ける。

そして、海も徒歩圏内。

「これ、いいんじゃない?」

僕がスマートフォンを妻に見せると、

「え、戸建て?」

少し驚いた顔をした。

ただ、数字を詳しく見ていくと、夢の湘南一戸建てという言葉から想像するような家ではなかった。

土地面積は56.54平方メートル。

約17坪。

決して広くない。

建物は3階建てだ。

1階には車庫があり、建物面積98.08平方メートルにはその車庫部分も含まれている。

庭があるわけでもない。

大きなウッドデッキがあるわけでもない。

芝生の上で子どもと遊ぶような「湘南の一軒家」でもない。

妻は間取り図をしばらく見たあと、

「縦に長いね」

と言った。

僕も笑った。

「うん。縦に長い」

でも不思議なことに、そこで候補から外そうとは思わなかった。

むしろ僕は、

「この場所なら、庭いらないかも」

と思った。

庭の代わりに、海がある

翌週、3人で腰越を歩いてみた。

物件を見るためではなく、

「本当にここで生活できるか」

を確かめるためだった。

駅から家まで歩く。

スーパーを確認する。

娘と小学校まで歩いてみる。

そこから海へ向かう。

いつもの休日なら、海に行くために車へ荷物を積む。

駐車場を探す。

帰る時間を気にする。

でも、ここに住んだら違う。

朝起きて、

「海行く?」

それだけでいい。

大げさな準備はいらない。

30分だけ散歩して帰ってきてもいい。

夏の夕方、少し涼しくなってから海へ行ってもいい。

僕はそのとき初めて気づいた。

僕たちが欲しかったのは、

「海の見える豪邸」ではなかった。

海が生活の中にあることだった。

庭がなくてもいい。

敷地が17坪でもいい。

この町全部を庭みたいに使えたら、それでいいのかもしれない。

「湘南に住む」という響きには、少し警戒していた

正直に言えば、僕は「湘南移住」という言葉があまり好きではなかった。

会社を辞めて。

サーフィンを始めて。

海の見える家でリモートワークをして。

休日はテラスでバーベキュー。

そんな劇的な人生の変化を、僕は求めていなかった。

仕事は辞めない。

妻も今の仕事を続ける。

娘も普通に学校へ通う。

住宅ローンも払う。

月曜日になれば仕事をする。

嫌な会議もあるだろうし、雨の日もある。

湘南へ引っ越したからといって、人生の問題が全部なくなるわけではない。

むしろ通勤は今より面倒になる。

夏は道が混む。

観光客も多い。

潮風で自転車だって錆びるだろう。

海の近くに住む以上、災害のことも無視できない。

この物件は津波ハザードにも該当していた。

僕たちはハザードマップを見て、避難場所や避難経路についても話した。

「そこまでして、海のそばに住みたい?」

妻に聞いた。

しばらく考えてから、

「海のそばに住みたいというより、ここで普通に暮らしてみたい」

と言った。

その言葉が、一番しっくりきた。

6,280万円で買うもの

家を買うことを考え始めると、不思議なくらい「広さ」が気になった。

同じ6,000万円台なら、場所を変えればもっと広い家が買える。

庭のある家もある。

土地が30坪、40坪ある物件だって探せる。

駅から少し離れれば、もっと選択肢は増える。

だから何度も考えた。

わざわざ17坪の土地に建つ3階建てを、6,280万円で買う必要があるのか。

住宅だけを比較するなら、たぶん正解ではない。

でも、家は建物だけを買うものではないのかもしれない。

朝、窓を開けたときの空気。

娘が学校から帰ってくる道。

近所の魚屋。

江ノ電の音。

夕方の海。

休日に「今日は何をしよう」と考えなくても、とりあえず海まで歩いていけること。

そういうものを全部ひっくるめて、僕たちは6,280万円を払う。

そう考えると、少しだけ意味が変わった。

引っ越して最初の日曜日

引っ越してから最初の日曜日。

朝6時半に目が覚めた。

カーテンの隙間から光が入っていた。

横を見ると、妻も娘も眠っている。

二度寝しようと思った。

でも、ふと思い立って、パーカーを羽織った。

玄関を出る。

まだ町は静かだった。

江ノ電の線路を越えて、そのまま海へ向かう。

十数分後。

僕は砂浜に立っていた。

サーファーが何人か海に入っている。

犬を散歩させている人がいる。

ジョギングしている人がいる。

特別な景色ではない。

観光で何度も見た景色だ。

ただ一つ違うのは、

今日は帰らなくていいということだった。

しばらく海を見てから、家へ戻った。

玄関を開けると、娘が階段の上から顔を出した。

「パパ、どこ行ってたの?」

「海」

「ずるい」

「じゃあ、あとで行く?」

「行く」

キッチンでは妻がコーヒーを淹れていた。

「どうだった?」

と聞かれた。

僕は少し考えて、

「普通だった」

と答えた。

妻は笑った。

でも、それでよかった。

僕たちが欲しかったのは、

旅行みたいな毎日じゃない。

海へ行くことが、コンビニへ行くくらい普通になる生活だった。

日曜日の夕方。

以前なら、そろそろ渋滞を気にして帰り支度を始める時間。

僕たちはまだ海にいた。

娘が濡れた足で砂浜を走っている。

妻がそれをスマートフォンで撮っている。

僕は時計を見た。

そして、すぐに閉じた。

今日は、帰らなくていい。

家はもう、

歩いて帰れるところにある。


この物件について

今回の物語の舞台となったのは、神奈川県鎌倉市腰越3丁目にある新築一戸建て。

価格は6,280万円。

土地面積56.54㎡、建物面積98.08㎡の3LDK、木造3階建てです。1階には車庫があり、1台分の駐車スペースが確保されています。

江ノ島電鉄「江ノ島」駅まで徒歩7分、小田急江ノ島線「片瀬江ノ島」駅まで徒歩11分、湘南モノレール「湘南江の島」駅まで徒歩10分。

対面キッチン、食器洗い乾燥機、浴室乾燥機、ウォークインクローゼットなどを備えています。

決して広大な土地ではありません。

けれど、「家の広さ」ではなく「家の外にある暮らし」まで含めて住む場所を選ぶ人にとっては、56.54㎡という数字だけでは測れない価値を持つ家なのかもしれません。

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※本記事はフィクションです。登場人物・エピソードはすべて架空のものです。本記事はアフィリエイト広告を含みます。掲載画像はイメージであり、実際の物件とは異なる場合があります。