「贈与税がかからないって、本当に?」と妻の彩が言った。
「長期優良住宅なら1,000万円まで非課税なんだよ」と夫の慎一が答えた。「うちの親が出してくれるって言ってる額がちょうどそこに収まる」
彩はしばらく黙っていた。「じゃあ、買えるかもしれないね」と言った。
5,830万円という壁
慎一は33歳、横浜の商社に勤めている。彩は31歳、川崎市内の病院で薬剤師をしている。子どもは2歳と0歳の二人。今は川崎市内の賃貸マンションで4人で暮らしている。世帯年収は合わせて1,000万円ほど。
家を買おうと決めたのは下の子が生まれた直後だった。でも5,000万円を超える物件を35年固定で組もうとすると、月々の返済が23〜25万円になる計算が出た。子どもが二人いて、保育料も教育費もかかる時期に、その数字は重かった。
転機は慎一の両親からの申し出だった。「頭金の足しにしてほしい」と、1,000万円の援助を申し出てくれた。
住宅取得資金贈与の特例
税理士に相談すると、「住宅取得等資金の非課税制度」の説明を受けた。父母や祖父母から住宅購入資金の贈与を受ける場合、長期優良住宅などの省エネ住宅は最大1,000万円まで贈与税が非課税になる制度だ。通常、1,000万円の贈与には約230万円の贈与税がかかるが、この特例を使えばゼロになる。
この物件は長期優良住宅として認定されている。特例の対象条件を満たしていた。
「親の1,000万円が、そのまま1,000万円として使える」ということの意味を、慎一はゆっくり噛み締めた。
フラット50という選択
頭金1,000万円を入れると借入額は4,830万円になる。ここで慎一が選んだのがフラット50だ。
フラット35の返済期間を最長50年に延ばしたローンで、長期優良住宅が対象となる。金利は固定で、返済期間を50年にすることで月々の返済額を大きく抑えられる。フラット35Sの金利引き下げ特典も適用されるため、当初10年間はさらに優遇される。
4,830万円を固定金利・50年で組むと、月々の返済は約14万円になる計算だ。35年で組んだ場合より月々が約5万円少なくなる。その5万円が、今の二人には大きかった。「子どもの保育料と習い事代に使える」と彩は言った。
総返済額は35年より増えるが、「今の生活を守りながら家を持てる」という選択が、二人には合っていた。
王禅寺東という場所
川崎市麻生区王禅寺東5丁目。新百合ヶ丘へのバスが通っていて、あざみ野へのバスも使える。柿生駅まで歩いて25分というのは遠いが、駅よりバスの方が便利な立地だ。
小学校まで徒歩210m。第一種低層住居専用地域の閑静な住宅街で、商業施設が少ない代わりに静かで緑が多い。慎一の職場へは新百合ヶ丘から新宿経由で通える。彩の勤め先も川崎市内なのでアクセスが取れる。
角地で南西道路に面しているため、日当たりがいい。全居室2面採光で、子どもの部屋にも光が入る。駐車場2台分で、週末の子どもの送迎も車でこなせる。
親の気持ちについて
1,000万円を出してくれた慎一の両親に、改めて礼を言った時、父親は「孫のためだから」と言った。
贈与税の特例のことは知らなかった。税金がかからないと伝えると、「それならよかった」と言っていた。
5,830万円は、親の1,000万円と、50年という時間と、二人の収入で組み立てた数字だ。今の生活を壊さずに、家族の場所を持てた。それが、二人にとっての答えだった。
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