ピッチに近い場所に、もう一つの部屋を持つ ── 川崎市中原区1億2,980万円と、あるサッカー選手の二拠点生活

東京

フロンターレと契約が決まった夜、田村雄也がまず考えたのは練習場への距離だった。

家族は東京の戸建てにいる。妻と子ども4人。その家を離れるつもりはない。でも等々力に近いところに自分の拠点を持つ必要があった。

プレミアリーグから川崎へ

雄也は32歳。Jリーグでキャリアをスタートさせ、20代後半にイングランドのクラブへ移籍した。プレミアリーグで3シーズン、日本代表にも名を連ねた。そして今季、フロンターレからオファーが来た。

「帰ってきたかった」と雄也は言う。理由はいくつかある。子どもたちが大きくなってきて、もう少し家族と同じ時間を過ごしたかった。プレミアリーグのフィジカルなサッカーで蓄積してきた経験を、Jリーグで還元したいという気持ちもあった。お金のためではなかった。

フロンターレを選んだのは、クラブの哲学と自分のサッカー観が合っていたからだ。パスをつなぎ、アイデアで崩すスタイルは、プレミアリーグ帰りの自分が最もやりたいサッカーだった。

二拠点という選択

家族が住む戸建ては東京都内にある。子どもの学校の関係で、引越しは難しかった。妻も「今の場所が気に入っている」と言っていた。

だとすれば、川崎に拠点を作るしかない。毎日東京から通うとすると、距離と時間のロスが積み上がる。コンディション管理を最優先に考えた時、練習場の近くに泊まれる場所を持つ方が合理的だという結論になった。

プロ選手が二拠点を持つことは珍しくない。プレミアリーグにいた頃も、遠征が多い時期は別のアパートを借りていた。「住む」というより「使う」感覚で、場所を持つことへの抵抗はなかった。

1億2,980万円の最上階

川崎市中原区今井西町。グランドメゾン武蔵小杉の杜、5階。建物の最上階だ。武蔵小杉駅から徒歩12分で、等々力陸上競技場には車で10分かからない。

2025年築の築2年、3LDK・70㎡。自分が使う部屋、トレーニング用品を置く部屋、もう一部屋は家族が来た時のために空けておく。子どもたちが試合を見に来る週末、この部屋に泊まれると妻は言っていた。

食洗機とディスポーザー、対面キッチン。プレミアリーグにいた頃から、食事の自己管理は徹底していた。試合前後のタイミングで何を食べるか、それがパフォーマンスに直結することを体で知っている。自分で料理できる環境が整っていることは、物件を選ぶ上で譲れない条件だった。

ピッチに近い生活

川崎でのルーティンが少しずつ形になってきた。練習が終わって、マンションに戻る。シャワーを浴びて、食事を作る。映像分析のソフトを開いて、次の試合の相手チームを見る。夜11時頃、妻と電話する。子どもたちの声が聞こえる。

週末の試合に家族が来る時は、前日の夜にこの部屋に集まる。4人の子どもが部屋を走り回るのを、雄也は少し笑いながら見ている。

ピッチに近い場所に部屋を持つことは、単なる利便性ではない。「ここで戦っている」という実感を、毎日の生活に持ち込むことだ。

1億2,980万円は、その実感のための値段だと思っている。

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