世田谷の戸建を売り、海まで徒歩6分の秋谷へ。50代夫婦が5,299万円の家で始めた第二の暮らし

横須賀市秋谷の海近中古戸建のイラスト 神奈川

世田谷の家には、家族四人の時間がそのまま残っていた。

浩一、56歳。妻の恵、54歳。二人の子どもは独立し、4LDKの戸建には使わない部屋が増えた。便利な街で、近所付き合いもある。住宅ローンも終わりが見えていた。それでも二人は、空いた部屋を守るために暮らしているような気持ちになった。

恵が言った。「思い出を置いておく家と、これから暮らす家は、同じじゃなくてもいいのかもしれない」

海辺の家を、別荘ではなく本宅に

候補になったのは横須賀市秋谷。逗子駅からバスを使う場所で、都心への通勤には時間がかかる。だが浩一は週二日の出社、恵は自宅で翻訳の仕事をしている。毎日の便利さより、家で過ごす時間の質を優先できる時期に来ていた。

二人が見つけた中古戸建は、2012年築の4LDK。土地約151平方メートル、建物約97平方メートルで、リノベーション済み。価格は5,299万円台。久留和海岸まで徒歩5分ほど、海岸までは徒歩6分と紹介されていた。車も2台置ける。

海の近さには魅力だけでなく、塩害や強風、ハザード、建物の維持管理が伴う。バスの本数や日々の買い物、夜の道路も確認した。晴れた休日の印象だけで決めないため、雨の日にも現地を訪れた。

家族の部屋を、これからの部屋に変える

世田谷の家では、子ども部屋をそのまま残していた。秋谷の4LDKでは、最初から二人の未来のために用途を決めた。一室は恵の仕事部屋。もう一室は浩一が木工をする小さな作業室。客室には子どもたちが家族を連れて泊まれるよう、ベッドを二つ置く。

リビングには大きなテレビを置かず、海で拾った流木や、二人で選んだ絵を飾った。朝は窓を開け、風の匂いを確かめる。海まで歩き、帰りにパンを買う。それだけの習慣が、生活の中心になった。

浩一は出社日の移動にまだ慣れなかった。以前なら三十分で着いた場所へ、余裕を持って家を出る必要がある。一方で、帰宅後に仕事の続きを考えることは減った。長い移動が、会社と家の間に境界をつくった。

家を小さくするのではなく、人生を広げる

住み替えを話したとき、長男は驚いた。「あの家、売っちゃうの?」と聞いた。恵も胸が痛んだ。柱についた身長の印、庭の木、何度も囲んだ食卓。家を手放すことは、思い出まで手放すように感じられた。

引っ越し前、家族全員で最後の食事をした。写真を撮り、必要なものを分けた。長男は帰り際に「次は海の家に集まろう」と言った。家族の場所は、建物が変わっても続けられる。

秋谷へ移ってから、子どもたちは以前より長く滞在するようになった。朝に海へ行き、昼は庭で食事をする。世田谷の家を失ったのではなく、集まり方を変えたのだと二人は思えた。

第二の暮らしは、引退後ではなく今から

二人にはまだ仕事がある。完全なリタイアでも、毎日が休日でもない。だからこそ、元気なうちに新しい土地へ移り、生活のリズムをつくりたかった。

夕方、海から戻る道で、浩一が言う。「今日の風は強かったね」。以前の夕食では仕事の話ばかりだった二人が、天気や潮の話をするようになった。

これから暮らす家を選ぶことは、過去を否定することではない。積み重ねた時間を持ったまま、次の時間に合う場所へ移ることだった。

横須賀市秋谷の中古戸建

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