158倍に落ちて、買うことにした ── 墨田区向島4,800万円と、ある夫婦のアフォーダブル住宅騒動
「当選しませんでした」というメールが届いた夜、山田翔太は妻の麻美に「もう買おう」と言った。
麻美は少し考えてから、「そうしよう」と答えた。
アフォーダブル住宅に応募した理由
翔太は32歳、台東区のIT系企業でエンジニアをしている。麻美は30歳、同じく都内でWebデザイナーとして働いている。結婚して2年、今は墨田区内の賃貸に住んでいて、月々の家賃は14万円だ。
今年の春、東京都が「アフォーダブル住宅」の入居者募集を始めたというニュースを見た。家賃相場より2割安い、子育て・新婚世帯向けの住宅。条件を確認すると、世帯年収も間取りも自分たちにぴったりだった。麻美が「応募してみよう」と言い、翔太もすぐに同意した。
結果は落選だった。後から調べると、一部の物件は倍率が158倍に達していたという。「そりゃ当たらないよ」と翔太は笑った。でも笑い飛ばせないものも残った。「これだけ需要があるのに、供給が全然足りていない」という現実だ。

賃貸で払い続けることへの疑問
落選をきっかけに、二人は改めて「住まい」について話し合った。
今の家賃14万円を払い続けると、10年で1,680万円になる。20年で3,360万円。その間、手元には何も残らない。アフォーダブル住宅に当たれば安く借り続けられたが、それは叶わなかった。だとすれば、「買う」という選択肢を真剣に考える時だと翔太は思った。
「賃貸か購入かという話は、ずっと先送りにしてきた」と麻美は言う。「でもあの落選メールが、背中を押してくれた気がする」
とうきょうスカイツリー駅、徒歩2分
物件を探し始めて2週間で、この部屋に出会った。
墨田区向島3丁目、エステムプラザとうきょうスカイツリー駅、4階。とうきょうスカイツリー駅から徒歩2分、押上駅まで徒歩6分。2018年築の鉄筋コンクリート、1LDK・33㎡。4,800万円。
翔太の職場まで押上から半蔵門線で直通15分。麻美の勤め先へも乗り換えなしで行ける。今住んでいる墨田区内から離れなくていい。この街の暮らし方を、二人はもう知っている。
5,000万円という数字の整理
頭金700万円を入れて35年ローンを組むと、月々の返済は約13万円。管理費と修繕積立金を合わせると月約20,000円の追加で、今の家賃とほぼ変わらない。違うのは「払い続けた先に何が残るか」だ。
アフォーダブル住宅の家賃が月12万7,400円だったことを思えば、自分たちが購入する物件の月々のコストはほぼ同じだ。でも購入なら、35年後に自分たちのものになる。
「公的な住宅に頼るより、自分たちで動いた方が早かった」と翔太は言う。皮肉でも強がりでもなく、本当にそう思っている。

向島という場所
スカイツリーが見える街に住む、という感覚は、最初は少し非現実的だった。でも実際に暮らしてみると、スカイツリーはただそこにある巨大な構造物で、商店街があって、隅田川が近くて、下町の密度がある街だ。
麻美は「なんか、東京に住んでいる実感がここに来てある気がする」と言った。翔太は意味がよくわからなかったが、なんとなく同じ感覚があった。
158倍に落ちたことは、今となってはよかったと思っている。あの落選がなければ、まだ賃貸で「いつか考えよう」と思っていたかもしれない。
4,800万円は、決断のきっかけをくれた番号だと思っている。

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