息子が家を出てから、使わない部屋が二つ残った。
55歳の浩一は雑誌編集者、妻の由美は図書館司書。郊外の4LDKは子育てにはちょうどよかったが、二人暮らしになると掃除と手入れの時間ばかりが目立つようになった。
休日の朝、由美が誰も使わない子ども部屋の窓を開けながら言った。
「これからは、部屋じゃなくて時間を広くしたいな」
小さくするための住み替え
二人が選んだのは、本駒込四丁目の中古マンションだった。52.41㎡の2LDK。以前の家よりずっと小さい。
田端駅へ徒歩11分、駒込駅へ12分、千駄木駅へ13分。勤務先へ通いやすく、美術館や書店にも出やすい。三方角住戸で、面積の数字より室内に抜けを感じられた。
1979年築という点は慎重に考えた。管理状況や耐震性、修繕の計画を確認し、毎月の管理費と修繕積立金も将来の支出として計算した。
古い建物に、新しい生活を入れる
価格は5,999万円。2026年12月にキッチン、浴室、床、壁、建具までリノベーションされる予定だった。
建物の時間は重ねながら、室内は二人のこれからに合わせて整えられる。その組み合わせが、浩一には本の改訂版のように思えた。
大きな家具は手放した。息子の思い出の品は箱を一つずつ開き、本当に残したいものだけを選んだ。減らす作業は寂しいと思っていたが、実際にはこれから何を大切にするかを決める時間だった。
家の外まで、自分たちの居場所になる
住み替えてから、二人はよく歩くようになった。休日は谷中まで散歩し、気になる喫茶店に入る。浩一が原稿に詰まった日は、由美の勤める図書館の近くまで遠回りする。
家の中の面積は減った。それでも、三つの駅と街の店、公園や坂道までが生活の一部になった。
夜、角部屋の窓から街の明かりを見る。浩一は、広さとは壁の内側だけを測るものではないのだと思う。
二人のこれからに必要だったのは、空いた部屋ではなく、まだ予定のない休日だった。
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