娘が家を出てから、食卓に空席がひとつ増えた。
健一は53歳、美穂は51歳。二人は長く住んだ賃貸マンションで、夫婦だけの生活を始めていた。静かになった家は気楽でもあり、少し広すぎるようにも感じた。
そんなある日、美穂が保護犬の譲渡会から帰ってきて言った。
「いつか、犬と暮らせる家に住みたい」
子育てが終わったら、住まいは小さくしてもいい。けれど、暮らしまで小さくする必要はない。二人の住み替えは、その一言から始まった。
子どものための家から、二人のための家へ
娘が高校生だった頃、家探しの条件は明確だった。学校へ通いやすいこと、個室があること、買い物に困らないこと。夫婦が何をしたいかは、いつも後回しだった。
ところが娘が独立すると、使われない部屋と大きな家具だけが残った。休日も以前とは違う。家族3人で出かけることは減り、健一は近所を散歩し、美穂は譲渡会の手伝いに行くようになった。
二人が次の家に求めたのは、広さではなかった。犬を迎えられること。将来、車を手放しても生活できること。そして、夫婦が互いに少し距離を取れることだった。
検索して見つけたのが、大田区東雪谷5丁目のロイヤルパレス東雪谷だった。
57平方メートルの2SLDKが、ちょうどよかった
物件は1994年築、57.54平方メートルの2SLDK。価格は4,890万円で、都営浅草線の西馬込駅から徒歩15分。2階の南西向き住戸だ。
駅前の新築マンションに比べれば、築年数も駅からの距離も目立つ。けれど、室内は2026年7月にリノベーションされ、キッチン、浴室、洗面台、トイレ、給湯器、床や壁が更新されている。
窓にはインナーサッシが設けられ、断熱と防音への配慮もある。犬と暮らすなら、外の音に敏感になりすぎない環境は大切だった。
そして何より、細則の範囲内で犬や猫を2匹まで飼育できる。
美穂は間取り図を見ながら、サービスルームを犬用品の収納と自分の作業スペースにしたいと言った。リード、フード、トイレシート、季節ごとのベッド。犬との暮らしには、意外なほど物が増える。
健一はもう一つの洋室を自分の部屋にするつもりだった。夫婦二人だから一室で十分、とは考えなかった。これから一緒にいる時間が長くなるからこそ、一人になれる場所も必要だと思った。
駅徒歩15分を、暮らしのリズムに変える
西馬込駅から15分という距離は、内見前から気になっていた。
健一は今も週5日出社している。雨の日や真夏の日を考えれば、駅に近い方が楽だ。けれど現地を歩くと、その15分は想像していたものと少し違った。
駅を離れるにつれて人通りが落ち着き、住宅街の空気に変わっていく。近くにはスーパーがあり、日常の買い物にも困りにくい。犬を迎えれば、朝晩どちらにしても散歩をすることになる。
「駅までの道を、運動だと思えばいいか」
健一が言うと、美穂は笑った。
便利さは、玄関から駅までの分数だけでは決まらない。犬と歩ける道があり、買い物ができ、家に戻れば落ち着いて過ごせる。二人にとっては、その一連の流れが暮らしやすさだった。
住宅ローンだけでなく、管理費も見る
マンションを購入するとき、二人は物件価格だけを見ないようにした。
この住戸では、管理費が月1万5,500円、修繕積立金が月1万2,800円かかる。住宅ローンを完済しても、毎月の支払いがゼロになるわけではない。固定資産税や保険、将来の修繕積立金の見直しも考えておく必要がある。
健一は定年後の収入を想定し、美穂は犬の医療費を家計に加えた。年齢を重ねた犬には、定期検診や治療が必要になることもある。家を買うことで、他の大切なものを削ってしまっては意味がない。
二人が納得できたのは、広さや新しさを追いすぎなかったからだった。必要なのは、夫婦それぞれの居場所と、犬が安心して眠れる場所。それ以上の面積を持たないことも、将来への備えになる。
空いた一席に、新しい家族が来る
内見を終えた帰り、美穂は娘に部屋の写真を送った。
すぐに返信が来た。
「いいと思う。犬を迎えたら、私も会いに行く」
美穂はそのメッセージを健一に見せた。子どもが巣立ったことは、家族が小さくなったという意味ではなかった。家族の形が変わり、新しい関係が始まるということだった。
引っ越したら、リビングの窓辺に犬のベッドを置く。引き戸を開ければ、隣の洋室と合わせて約15.6畳の空間として使える。娘が泊まりに来る日は扉を閉め、普段は犬がのびのび歩けるように開けておく。
食卓の空席は、もう寂しさだけを表す場所ではない。
そこにはきっと、散歩を終えた二人の足元で眠る、新しい家族がいる。
ロイヤルパレス東雪谷 2階
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